飛行機の逆噴射とスポイラーとは?着陸で止まる仕組みを現役整備士が解説
飛行機が着陸すると、翼の上の板がバッと立ち上がり、エンジンが「ゴーッ」と大きな音を立てます。時速200km以上で降りてきた機体が、あっという間に止まるのはなぜでしょうか。
私は現役の航空整備士です。この記事では、飛行機の逆噴射とスポイラーとブレーキが着陸でどう働いて、機体を止めているのかを解説します。
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結論:飛行機は3つの仕組みを組み合わせて止まる
飛行機の着陸は、1つの装置だけで止まっているわけではありません。次の3つが、この順番で働きます。
- スポイラー(翼の上の板)
- 逆噴射(エンジンの風を前に向ける)
- ブレーキ(車輪のブレーキ)
それぞれに役割があり、組み合わせることで短い距離で止まれます。
スポイラー:翼の上の板で揚力を消す
スポイラーは、主翼の上についている板です。着陸して車輪が地面についたあと、この板が一斉に立ち上がります。
翼の後ろで動くフラップとの違いは、飛行機のフラップの記事で解説しています。
スポイラーのいちばんの役割は、翼が生み出している揚力(機体を持ち上げる力)を消すことです。
揚力を消すと、ブレーキが効く
着陸した直後の飛行機は、まだ速度があるので、翼が機体を持ち上げようとしています。この状態では、機体の重さがタイヤにしっかりかかりません。
スポイラーで揚力を消すと、機体の重さがタイヤにかかります。タイヤが地面を強く押さえるので、ブレーキがよく効くようになります。立ち上がった板が風を受けて、機体を減速させる働きもあります。
航空安全の専門サイトでも、スポイラーのいちばんの目的はブレーキの効きを最大にすることだと説明されています。

スポイラーはブレーキのように見えますが、いちばんの仕事は揚力を消すことです。機体の重さをタイヤにかけてあげるから、ブレーキがしっかり効くんです。
空の上でも使っている
スポイラーは、空の上でもよく使います。速度を落としたいときに、パイロットが操作して翼の上の板を立てます。空中で立てる角度は、着陸のときより小さく抑えられています。
窓側の席に座ると、翼の上の板が動くところを見られます。整備士が飛行機に乗るとつい見てしまうポイントは、こちらの記事にまとめました。
飛行機の逆噴射:エンジンの風を前に向ける
逆噴射は、エンジンが後ろに噴き出している空気の向きを、前向きに変える仕組みです。正式には「スラストリバーサー(逆推力装置)」と呼びます。
多くの旅客機では、エンジンの後ろ側のカバーが後ろへずれて開き、エンジンの外側を流れる空気を斜め前に吹き出します。前に向かう力が生まれ、機体にブレーキがかかります。着陸のときの「ゴーッ」という大きな音は、逆噴射でエンジンの出力を上げたときの音です。

速いときほどよく効く
逆噴射は、速度が速いときほどよく効きます。速度が落ちてきたら、エンジンの出力をいちばん弱い状態に戻します。遅い速度で強く使い続けると、地面の小石やゴミをエンジンが吸い込むおそれがあるためです。
強さはキャプテンがその日の状況で選ぶ
逆噴射には、弱く使う「リバースアイドル」と、強く使う「フルリバース」があります。どちらを使うかは、その日の状況を見てキャプテン(機長)が判断します。
- 燃料を節約したいとき:リバースアイドル
- 滑走路が短いときや、雨で滑りやすいとき:フルリバース
そのため、同じ空港でも、日によって着陸の音の大きさが違うことがあります。
ブレーキ:最後に止めるのは車輪のブレーキ
最後に機体を止めるのは、車輪についているブレーキです。スポイラーが機体の重さをタイヤにかけているので、ブレーキがしっかり効きます。
オートブレーキ
多くの旅客機には、オートブレーキという仕組みがあります。着陸の前にパイロットが減速の強さを選んでおくと、着陸後に自動でブレーキがかかります。
弱い設定では、ブレーキがかかるのを少し遅らせ、そのあいだに逆噴射で速度を落とす使い方もされます。
着陸のブレーキでタイヤがどれほど熱くなるかは、飛行機のタイヤの記事で解説しています。
逆噴射が壊れたままでも出発できる理由
逆噴射の装置が壊れたまま出発することもあります。
多くの旅客機では、着陸に必要な距離を計算するときに、逆噴射の効果を入れていません。逆噴射は、上乗せの安全の余裕という扱いです(SKYbrary「Deceleration on the Runway」)。そのため、決められた条件を満たせば、逆噴射が使えなくても安全に止まれます。
整備士が点検すること
逆噴射の装置は、機種によって不具合が起きやすいものがあります。そうした機種では、逆噴射の装置を詳しく点検して、不具合が起きる前に防いでいます。
点検のときには、止まった状態で逆噴射を動かすこともあります。ただし、止まった状態で使うには決められた条件があります。
飛行機の仕組みを一冊で見渡したい人へ『飛行機大図鑑』
この記事で触れたエンジンや翼、着陸の仕組みを、ひと通り見渡せる本があります。ニュートンプレスの『飛行機大図鑑』(Newton大図鑑シリーズ)です。
監修は、航空科学博物館の学芸員である今野友和さんです。東京大学大学院で航空宇宙工学を専攻され、博士(工学)の学位を持つ方です。
目次の「飛行機大解剖」の章には、次のような項目が並んでいます。
- ターボファンエンジン
- 翼
- ランディングギア
- 着陸
まとめ
- 飛行機は、スポイラー・逆噴射・ブレーキの順に働いて止まる
- スポイラーは揚力を消し、機体の重さをタイヤにかけてブレーキを効かせる
- 逆噴射は速いときほど効く。強さはキャプテンが状況で選ぶ
- 多くの旅客機は、逆噴射なしでも止まれるように計算されている
- スポイラーは空の上でも、速度を落とすときに使う
逆噴射で飛行機はバックできるのか、止まった状態で使うとどうなるのかは、トーイングカーの記事で解説しています。

