航空コラム

パイロットの食事はどこで食べる?コックピットで食べる理由を現役整備士が解説

パイロットの食事のようすを解説するサクラ(エアバスとボーイングの比較)
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「長距離フライト中、パイロットさんっていったいどこでご飯を食べているんだろう?」と気になったことはありませんか?お客様と一緒に客室で食べる…わけではありません。実は、パイロットの食事は操縦席(コックピット)の中でとられています。
この記事では、現役一等航空整備士の視点から、パイロットの食事の場所や、あまり知られていない安全上の工夫まで、わかりやすく解説します。

パイロットの食事は「コックピット」でとる

パイロットは、飛行中の食事を基本的にコックピット(操縦席)の中でとります。客室に出てきて、お客様と一緒に食べるということはありません。狭い操縦席の中で、膝の上やわずかなスペースにトレイを置いて食べるのが一般的です。

「えっ、あんなにスイッチや計器がたくさんある場所で食べるの?」と驚かれるかもしれません。実際、操縦席は決して広くはありませんが、それでもパイロットがコックピットで食事をとるのには、きちんとした理由があります。

なぜ客室ではなくコックピットで食べるの?

パイロットがコックピットで食事をとる理由は、大きく分けて「安全」と「セキュリティ」の2つです。

  • 常にどちらかが操縦・監視している必要がある…飛行中、操縦席を長時間空けるわけにはいきません
  • コックピットのドアは固く施錠されている…セキュリティ上、飛行中はむやみに開け閉めできません

自動操縦中であっても、パイロットは計器や周囲の状況を常に監視し続けています。気を抜ける瞬間はありません。だからこそ、わざわざ客室に出て食べるのではなく、コックピットの中で食事を済ませるのが合理的なのです。

ボーイングとエアバスで「食事のしやすさ」が違う!

実は、同じ飛行機でもメーカーによって食事のしやすさが変わります。整備士の視点から、世界の二大メーカー「ボーイング」と「エアバス」の違いをご紹介します。これは現場を知る整備士ならではの豆知識です。

ボーイングは「操縦桿」が邪魔になる

ボーイング機の操縦席には、パイロットの正面に大きな操縦桿(そうじゅうかん)があります。ハンドルのような形のこの操縦桿が、食事のときには少し邪魔になってしまいます。

そのためボーイング機のパイロットは、食事のときに椅子を後ろに下げ、太もも(膝)の上にトレイを乗せて食べるのが一般的です。正面に操縦桿があるぶん、ちょっと窮屈な姿勢になります。

エアバスは「机」が出てきて食べやすい

いっぽうエアバス機には、正面の大きな操縦桿がありません。代わりに、サイドスティックと呼ばれる小さな操縦桿が椅子の横についています。そのため正面が広々としているのが特徴です。

さらにエアバス機には、前からキーボードが引き出せる仕組みがあります。普段は計器に文字を入力するためのものですが、このキーボードが「机(テーブル)」に変身するのです。

エアバスのパイロットは、この机の上で食事をとります。正面が広く、しっかりとした机があるぶん、ボーイング機よりも食事がしやすいというメリットがあるのです。同じ「コックピットでの食事」でも、メーカーによってこんな違いがあるのは面白いですね。

機長と副操縦士は「別々のメニュー」を食べる

ここが、今回いちばん知ってほしいポイントです。実は、機長と副操縦士は、あえて違うメニューの食事をとることが多いのです。

理由は「食中毒(食あたり)対策」。もし2人が同じ食事を食べて、両方とも食あたりを起こしてしまったら、操縦できる人がいなくなってしまいます。これは絶対に避けなければなりません。万が一どちらかが体調を崩しても、もう一方が問題なく操縦を続けられるように、別々のメニューにしているのです。

「そこまで気をつけるの?」と思われるかもしれませんが、これこそが航空業界の安全への徹底ぶりです。”最悪の事態”を常に想定して、その芽をあらかじめ摘んでおく。それが空の安全を支えています。

食べるタイミングもずらす

メニューだけでなく、食べる「タイミング」もずらします。片方が操縦・監視に集中している間に、もう片方が食事をとる。食べ終わったら交代する——という流れです。

これも「常にどちらかが操縦できる状態を保つ」ための工夫です。2人が同時に食事に集中してしまう、という状況をつくらないようにしているのです。

機内食とは違う「クルーミール」

パイロットやCA(客室乗務員)が食べる食事は「クルーミール(乗務員用の食事)」と呼ばれ、お客様の機内食とは別に用意されることが多くあります。

これも、万が一お客様の機内食に何か問題があったときに、乗務員まで同時に影響を受けてしまわないようにするための備えでもあります。乗務員の健康管理そのものが、安全運航の一部というわけです。

国内線と国際線で食事は違う?

フライトの長さによっても事情は変わります。飛行時間が短い国内線では、そもそも機内で食事をとらないことも多くあります。一方、何時間も飛び続ける長距離の国際線では、コックピットでしっかり食事をとるのが一般的です。

さらに、十数時間にもおよぶ超長距離路線では、3人以上のパイロットが交代で乗務し、専用の休憩スペースで仮眠をとることもあります。食事も休憩も、すべてはパイロットが最高の集中力を保ち続けるための仕組みとして組み込まれているのです。

まとめ:すべては「安全に飛び続けるため」

パイロットの食事は、コックピットの中で、機長と副操縦士が別メニュー・別タイミングでとる——。一見ささいなことに見えますが、これらはすべて「何があっても安全に飛び続けるため」の工夫です。

次に飛行機に乗るとき、操縦席の中でパイロットが交代で食事をとっている姿を想像してみると、少し面白いかもしれませんね。整備士としても、こうした地道な安全への配慮の積み重ねこそが、飛行機を「世界一安全な乗り物」にしていると感じます。

航空の安全に関する取り組みについては、国土交通省 航空局の公式サイトもあわせてご覧ください。

航空整備士の仕事内容について詳しく知りたい方はこちらの記事もどうぞ:航空整備士の仕事内容を現役整備士が解説

ABOUT ME
サクラ
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一等航空整備士
一等航空整備士の資格を持つ、現役の航空整備士です。 日本国内はもちろん、海外でも整備士としての経験を積んできました。 日々、飛行機と向き合う中で感じたことや、現場で学んだリアルな知識を発信しています✈️ 航空ニュースの深掘りや、普段はあまり知られていない整備の裏側、そして空の魅力まで。 飛行機がもっと面白くなる、そんなきっかけを届けられたら嬉しいです。
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