ANA機が那覇で緊急脱出|なぜ重大インシデント?エンジン1基停止との関係を現役整備士が解説
2026年9月23日の夜、那覇発佐賀行きのANA便が、エンジンの異常で那覇空港に引き返しました。着陸後には乗客が緊急脱出し、国土交通省はこの件を「重大インシデント」に認定しています。
ニュースで重大インシデントと聞いても、事故と何が違うのかは分かりにくいと思います。エンジンが1つ止まった飛行機が、無事に戻れた理由も気になるところです。
私は現役の航空整備士です。この記事では、報道されている事実をもとに、重大インシデントの意味と、着陸後に機体がどうなるのかを解説します。原因は調査中のため、この記事では推測しません。
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那覇で何が起きたのか
報道されている内容を整理します。出典はAviation Wireの記事です。
- 便名:ANAのNH1502便(那覇発・佐賀行き、運航はANAウイングス)
- 機体:ボーイング737-800型機
- 日時:9月23日の午後9時19分ごろ
- 搭乗者:乗客152人、乗員6人
- 経過:上昇中に機体の振動と右エンジンのオイル高温を確認し、右エンジンを止めて那覇へ引き返した
- 着陸後:誘導路の上で止まって緊急脱出。乗客3人が膝にすり傷などを負った
国土交通省は同じ日のうちに、この件を重大インシデントに認定しました。原因は現在調べられているところです。
重大インシデントとは?航空事故との違い
重大インシデントとは、航空事故には至らなかったものの、事故が起きるおそれがあった事態のことです。航空法で、機長が国に報告しなければならないと決められています。
航空事故のほうは、墜落や火災、人の死傷などが実際に起きた場合を指します。重大インシデントは、その一歩手前の事態です。
どんな事態が重大インシデントに当たるかは、航空法施行規則という国のルールに一覧で書かれています。滑走路からの逸脱や機内の気圧の異常な低下、燃料の欠乏など、18の項目があります。
規則の一覧で、今回に関係する2つの項目
規則の一覧には、今回の件に関係する項目が2つあります。
非常脱出スライドを使った脱出
規則の第5号には「非常脱出スライドを使用して非常脱出を行つた事態」とあります。けが人の有無に関係なく、スライドで脱出した時点でこの項目に当たります。
エンジンの停止
第8号は、飛行中のエンジンの停止です。ただし双発機の場合、条件は「2基以上が止まったとき」とされています。737-800は双発機なので、エンジン停止の項目に限れば、2基とも止まった場合が対象です。
今回、国土交通省がどの項目で認定したかは、報道では明らかにされていません。規則の書き方から分かるのは、スライドを使った脱出がそれ自体で重大インシデントとして扱われる、ということです。
双発機はエンジン1基でも飛べる
飛行機は、エンジンが1つ止まっても残りのエンジンで飛び続けられるように作られています。
設計の土台にあるのは、フェールセーフという考え方です。どこかに不具合が出ても、ほかのシステムが働いていれば運航を続けられるようにしておく、という考え方です。今回のように上空でエンジンが1つ止まっても、飛行は続けられます。

飛行機は、どこかに不具合が出ても飛び続けられるように作られています。上空でエンジンが1つ止まっても、残りの1つで飛べます。
洋上を飛ぶための「ETOPS」
空港から遠く離れた海の上を双発機が飛ぶには、ETOPS(イートップス)という国の承認が必要です。
国土交通省の基準では、エンジン1つで飛んだときに、着陸できる空港まで60分を超える経路が対象です。承認を受けるには、エンジンの詳しい点検や、不具合がどのくらいの頻度で起きているかの監視が求められます。
条件を満たした機体と会社には、上空でエンジン1つに不具合が出ても、残りの1つで数時間飛び続ける運航が認められています。
着陸後、整備士が最初にやること
エンジンを止めて着陸した機体に対して、整備士が最初にやるのは、FDRとCVRのブレーカーを切ることです。
FDRは飛行中のデータを、CVRは操縦室の音声を記録する装置で、どちらもいわゆるブラックボックスです。記録は古いものから順に上書きされていくので、電源を切って記録を残します。調査の手がかりを守るための作業です。
FDRとCVRの中身や、実は黒くない理由は、こちらの記事にまとめています。

機体の「保全」とは
報道には、機体を現地で保全しているとあります。保全とは、国の許可がないと整備ができない状態のことです。
整備士にとっては、目の前に不具合の出た機体があっても、許可が出るまで手を入れられないということです。原因を正しく調べるために、機体に手を加えずに残しておく必要があります。
使った脱出スライドはどうなる?
緊急脱出で使ったスライドは、交換して修理に出します。
スライドは、ふだんは扉の内側に折りたたんで収められています。扉を非常用の状態で開けると、一気にふくらむ仕組みです。一度ふくらんだスライドを、その場でたたみ直して使い回すことはありません。
スライドのような緊急用の装備は、使っていなくても定期的に交換しています。いざというときに確実に動かすためです。
飛行機の仕組みを一冊で見渡したい人へ『飛行機大図鑑』
この記事で触れたエンジンやフライトレコーダ、駐機・整備について、ひと通り載っている本があります。ニュートンプレスの『飛行機大図鑑』(Newton大図鑑シリーズ)です。
監修は、航空科学博物館の学芸員である今野友和さんです。東京大学大学院で航空宇宙工学を専攻され、博士(工学)の学位を持つ方です。
ターボファンエンジン、ランディングギア、コックピット、駐機・整備といった項目が並んでいます。コラムには「フライトレコーダ」も入っています。
まとめ
那覇の件は、エンジン1基を止めて引き返し、着陸後にスライドで緊急脱出したケースです。
- 重大インシデントは、事故には至らなかったが、事故のおそれがあった事態
- 規則では、スライドを使った非常脱出はそれだけで重大インシデントに当たる
- エンジン停止の項目は、双発機なら2基とも止まった場合が対象
- 双発機は、エンジン1つでも飛び続けられるように作られている
- 着陸後はFDRとCVRの記録を守り、機体は国の許可が出るまで整備できない
原因については、今後の国の調査結果を待ちたいと思います。
エンジンオイルの不具合で、飛行機が目的地以外の空港に降りた例もあります。JAL機がアイスランドにダイバートした件で解説しています。

