飛行機のブラックボックスは実は黒い|オレンジはCVRとFDRだけと現役整備士が解説
飛行機のブラックボックスは、名前のとおり黒い箱です。
事故のニュースで出てくるオレンジ色の箱を思い浮かべた方が多いと思います。あれもブラックボックスですが、オレンジ色なのはCVRとFDRという2つだけです。残りはすべて黒です。
そして、その黒い箱は飛行機の中に山ほど積まれています。
現役の一等航空整備士である私・サクラが、報道では出てこないブラックボックスの正体を解説します。私は仕事で、その黒い箱が並ぶ部屋によく入ります。
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飛行機のブラックボックスは、ほとんどが黒い
ブラックボックスとは、飛行機に積まれている電子機器のユニットです。1つの箱が1つのシステムを担当しています。
見た目はそのまま、黒い箱です。
- 大きさは担当するシステムによってまちまち
- 重さもまちまちだが、重くても10kg以内がほとんど
- 表面は黒い
「ブラックボックス=オレンジ色」と思っている方が多いのですが、実際は逆です。黒い箱のほうが圧倒的に多く、オレンジなのは2つだけです。
オレンジ色なのはCVRとFDRの2つだけ
事故のたびに報道される「ブラックボックス」は、次の2つを指しています。
| 装置 | 正式名称 | 記録するもの |
|---|---|---|
| CVR | 操縦室用音声記録装置 | コックピット内の会話、管制官との交信 |
| FDR | 飛行記録装置 | 速度・高度・姿勢・操縦操作などの飛行データ |
なぜオレンジ色なのか
理由は、見つけやすくするためです。
墜落事故が起きると、機体はばらばらになります。その残骸の山、あるいは海や森の中から、この2つを探し出さなければなりません。黒い箱では見つかりません。だから目立つオレンジ色にしてあります。
なぜ機体の後ろ側に付いているのか
CVRとFDRは、機体の後方に取り付けられています。
これも事故を想定した設計です。墜落したとき、機体の後部は前方に比べて損傷が少なく残ります。大事なデータを後から回収できるように、いちばん壊れにくい場所に置いてあります。

何時間ぶん記録されるのか
FDRは25時間以上を記録します。CVRは長いあいだ2時間でした。
ただし、ここは近年変わりました。2021年1月1日以降に製造された旅客機は、CVRも25時間の記録が必要になっています。2014年のマレーシア航空370便の捜索を受けて、ICAO(国際民間航空機関)が基準を改正したためです。
回収されたCVRとFDRは、日本では運輸安全委員会が調査に使います(運輸安全委員会「調査の流れ(航空)」)。
なお、CVRの記録が2時間で上書きされてしまう問題については、対地接近警報装置とは?の記事で実例をもとに書きました。
飛行機の頭脳「コンピュータールーム」はブラックボックスだらけ
ここからが、報道では出てこない話です。
飛行機には、電子機器をまとめて収めた部屋があります。飛行機の頭脳にあたる場所で、黒いブラックボックスがびっしり並んでいます。私は仕事でこの部屋によく入ります。
中はこんな場所です。
- 狭い。機種にもよりますが、立てる高さはあります。ただ、ゆったりした空間ではありません
- 少し暗い。照明はありますが、明るい部屋ではありません
- うるさい。電子機器を冷やすファンが回り続けています。高圧の電気を扱う機体では、音はさらに大きくなります
一般の方が想像する「飛行機の中」とは、まったく違う空間だと思います。座席もなければ窓もありません。ファンの音が鳴り続ける、黒い箱の部屋です。
私と同じ一等航空整備士が書いた本もあります。
『現役航空整備士が書いたかなりマニアックな飛行機豆知識』です。
電源系統や慣性基準装置など、黒い箱が動かしているシステムの章が並んでいます。もっと知りたくなった方はどうぞ📕
現場では「ブラックボックス」とは呼びません
意外に思われるかもしれませんが、整備の現場で「ブラックボックス」という言葉はほとんど使いません。
呼ぶときは、その箱が担当するシステムの名前で呼びます。衝突防止装置のコンピューターなら「TCAS COMPUTER」、対地接近警報装置のコンピューターなら、そのシステム名です。
「ブラックボックスを交換して」ではなく「TCAS COMPUTERを交換して」と言います。どの箱を指しているのかが一発で伝わるからです(TCASとは?衝突を防いだ羽田の事例)。

現場で「ブラックボックス取って」と言われたら、たぶん「どれ?」と聞き返します。名前で呼んだほうが早いんです。
ちなみに、なぜ「ブラックボックス」と呼ぶようになったのか。正確な理由は、現役の私も知りません。黒いからだろう、と思っています。
整備士はブラックボックスをどう扱うのか
黒い箱に不具合が出たとき、整備士がすることは1つです。箱ごと交換します。
中を開けて基板を修理する、といったことはしません。不具合のメッセージが出たら、その箱を降ろして新しいものを付けます。降ろした箱は、専門の部署や工場で中を調べます。
中身は開けずに、まるごと入れ替える。ブラックボックスという呼び名にふさわしい扱い方かもしれません。
もう1つ、整備士がCVRに対してやることがあります。他の部門から「記録を保存してほしい」という指示が来たとき、サーキットブレーカーをオープンして録音を止め、記録が上書きされないようにします。これも整備士個人の判断では行いません。
飛行機のブラックボックスについてよくある質問
ブラックボックスは全部オレンジ色ですか
いいえ。オレンジなのはCVRとFDRの2つだけです。残りは黒い箱です。
CVRは何時間ぶん記録されますか
従来は2時間でした。2021年1月1日以降に製造された旅客機は25時間です。
整備士はブラックボックスの中を修理しますか
しません。不具合が出たら箱ごと交換します。
まとめ:オレンジは2つだけ、あとは全部黒い
| 色 | 役割 | |
|---|---|---|
| CVR・FDR | オレンジ | 事故調査のために音声と飛行データを記録する |
| そのほかのブラックボックス | 黒 | 飛行機の各システムを動かす |
飛行機のブラックボックスは、事故のときだけ出てくる特別な箱ではありません。今日も飛んでいる飛行機の中で、黒い箱が静かに仕事をしています。
そのうちの1つ、衝突を防ぐTCASについては、実際に羽田で起きた事例をもとに書きました。

