飛行機のエアコンってどうなってるの?現役整備士が仕組みをやさしく解説
夏の暑い日、飛行機に乗り込んだ瞬間は少しムワッとするのに、離陸したらいつの間にか快適になっていた——そんな経験はありませんか?飛行機のエアコンは、じつは家庭のエアコンとはまったく違う仕組みで動いています。私は現役の航空整備士として、この空調のしくみを毎日整備しています。今回は「飛行機のエアコンってどうなってるの?」という素朴な疑問に、現場目線でやさしくお答えします。
飛行機のエアコンってどうなってるの?
結論から言うと、飛行機のエアコンは「地上にいるとき」と「空を飛んでいるとき」で、冷たい空気の作り方・送り方が変わります。まずは地上から見ていきましょう。
地上にいるときの冷やし方
飛行機が空港に停まっているあいだは、おもに2つの方法で機内に冷気を送っています。ひとつは空港の地上設備。もうひとつは、飛行機自身が積んでいるエアコン装置です。
地上設備を使うときは、車両のような装置から銀色の太いダクト(ホース)を機体につないで、冷たい空気を直接送り込みます。空港で駐機中の飛行機の足元に、太い蛇腹のホースがつながっているのを見たことがある方もいるかもしれません。あれが地上から冷気を送っている様子です。

出発前の機内がひんやりしているのは、地上のスタッフや私たち整備の裏方仕事のおかげでもあるんですよ。
機体のエアコン装置はどこにあるの?
機種によって違いますが、飛行機自身のエアコン装置は、多くの場合お腹の部分にあります。客室の下には貨物室がありますが、そのさらに下、気圧をかけていない「非加圧部分」と呼ばれるスペースに収められていることが多いです。ふだん乗客の目に触れることはありませんが、機体の底で静かに働いているんです。
どうやって冷たい空気を作るの?
このエアコン装置は、エンジン、もしくは補助動力装置(APU)からもらった圧縮空気を使って動いています。APUというのは、飛行機のうしろのほうに積まれている小さなエンジンのような装置のこと。メインのエンジンが止まっている駐機中でも、このAPUが電気や圧縮空気を作ってくれるので、エアコンを動かせるというわけです。
ここがおもしろいところで、飛行機のエアコンは「圧縮した空気を一気に膨らませると温度が下がる」という物理の性質を利用して冷気を作っています。家庭のエアコンのようにフロンガスで冷やしているわけではないんです。
ボーイング787は「外の空気」から作る新しい方式
最新の機種であるボーイング787では、少し違ったやり方をしています。エンジンから圧縮空気をもらうのではなく、機外の空気を取り込んで、専用の装置(電動のコンプレッサー)で圧縮して冷気を作っているのです。これは「ブリードレス」と呼ばれる新しい考え方で、エンジンの負担を減らして燃費をよくする効果があります(参考:ANA・ボーイング787型機の電気システムとバッテリー)。
「上空は寒いから外気を入れるだけでいいのでは?」への答え
787が外の空気を使うと聞くと、「上空は氷点下なんだから、その冷たい空気をそのまま入れれば装置なんていらないのでは?」と思うかもしれません。私も最初はそう思いました。でも、そう単純にはいかないんです。
外の空気には、オゾンや湿気、目に見えない細菌・ウイルスなどが含まれています。それらを取り除いてきれいで安全な空気にするために、いったん外気を数百度という高温まで温めてから、あらためて冷ますという工程が必要になります。だから装置もかなり大きくなります。「冷たい空気をそのまま入れればラク」ではなく、乗客が安心して呼吸できる空気を作るために、手間のかかる仕事をしているのです。
だから離陸前は暑く感じることがある
駐機中は地上設備やAPUで空調をまかなっていますが、その能力には限りがあります。真夏の炎天下では、機内がなかなか冷えきらず暑く感じることも。離陸してエンジンがしっかり回り始めると、空調も本来の力を発揮して、機内が一気に快適になっていきます。「乗ったときは暑かったのに、飛んだら涼しくなった」のには、こんな裏側があるんです。
まとめ
- 飛行機のエアコンは、地上と上空で冷気の作り方・送り方が変わる
- 地上では空港の地上設備や、機体のエアコン装置(お腹の非加圧部分にある)が活躍する
- エアコン装置はエンジンやAPUの圧縮空気で駆動し、空気を膨らませて冷やす
- ボーイング787は外気を取り込む「ブリードレス」方式。ただし安全な空気にするため数百度に温めてから冷ます手間がかかる
機内で快適に過ごすための工夫は、空調以外にもたくさんあります。整備士が機内で思わず見てしまうポイントの記事とあわせて読むと、次のフライトがちょっと楽しくなるはずです。

