バードストライクとは?現役整備士が明かす機体の痕跡と点検のリアル
バードストライクという言葉、ニュースで耳にしたことはあっても「実際に飛行機はどうなるの?」まではイメージしにくいですよね。私は現役の航空整備士として、鳥がぶつかった機体を何度も間近で点検してきました。この記事では、バードストライクとは何かを、教科書の説明ではなく“整備の現場で本当に起きていること”としてお伝えします。
バードストライクとは?
バードストライクとは、飛行中や離着陸中の航空機に鳥が衝突することをいいます。とくに鳥が多く飛ぶ低い高度、つまり空港での離陸・着陸の前後に起きやすいのが特徴です。
日本では国土交通省が報告制度を設けていて、鳥が当たったら機長や運航者が報告するルールになっています(参考:国土交通省・航空機への鳥衝突(バードストライク)等の報告について)。それだけ、航空業界にとって身近で無視できないトラブルなのです。
鳥が当たった機体には、こんな痕跡が残る
整備士がバードストライクに気づく最初のサインは、機体に残る“痕跡”です。当たり方は鳥の大きさによって大きく変わります。
比較的小さな鳥だと、当たった場所に血糊・羽・肉片が残っていて、それでバードストライクがあったと分かります。機体の金属が凹んでいることもあれば、拭き取ればほとんどダメージが見当たらないこともあります。「痕は派手なのに機体は無傷」というケースも、現場では珍しくありません。

小さな鳥だと、飛行機を降りてきたパイロットより先に、私たち整備士が機首についた羽根に気づくこともあるんですよ。
大きな鳥は本当に危険! レドームを突き破ったことも
怖いのは、大きな鳥が当たったときです。私が見た中には、機首の先端にある「レドーム」を鳥が突き破ってしまった例もありました。
レドームというのは、飛行機のいちばん前、ちょうど鼻先にあたる部分のこと。ここには気象や地形を捉えるレーダーが入っていて、電波を通すために金属ではなく樹脂系の素材でできています。頑丈な胴体とは違い、大きな鳥の衝撃には耐えきれずに割れてしまうことがあるのです。時速数百キロで飛ぶ機体に鳥が当たる衝撃は、想像よりずっと大きいと考えてください。
エンジンに吸い込まれると、もっと深刻
機体の表面に当たるバードストライクよりも、さらに深刻なのが鳥がエンジンに吸い込まれるケースです。ジェットエンジンは前から大量の空気を吸い込んで動いているため、その流れに鳥が巻き込まれてしまうことがあります。
大きな鳥が吸い込まれると、高速で回転する内部のブレード(羽根)が変形・欠損し、最悪の場合はそのエンジンが使えなくなることもあります。過去には離陸直後に複数のエンジンが同時に鳥を吸い込み、川に不時着した有名な事故もありました。エンジンにバードストライクの疑いがあれば、整備士は内部まで入念に点検し、少しでも異常があれば飛ばしません。
いちばん怖いのは「見えないダメージ」
バードストライクで整備士が本当に神経を使うのは、目に見える凹みよりも“見えない傷”のほうです。
たとえばコックピットの窓の周囲に当たったときや、主翼などに使われている複合材(カーボンなどの軽くて丈夫な素材)に当たったとき。表面はきれいに見えても、内部の層がはがれていたり、ひびが入っていたりすることがあります。こういう場合は、非破壊検査という特別な点検が必要になります。
非破壊検査とは、その名のとおり機体を壊さずに内部の傷を調べる検査のこと。超音波などを使って、表面からは見えない内部の損傷を見つけ出します。「叩いて凹んでいないから大丈夫」では済まないのが、飛行機の整備の厳しいところなんです。
なぜバードストライクは無くならないのか
空港では、鳥を追い払ったり、鳥が寄りつきにくい環境を整えたりと、さまざまな対策がとられています。近年はAIで鳥を検知する仕組みも導入され始めました。それでも、空を飛ぶ鳥を完全にゼロにすることはできません。
だからこそ、鳥が当たった機体を一機ずつていねいに点検する整備士の仕事が、最後の砦になります。派手な事故として報道されなくても、こうした地道な点検が毎日の安全を支えているのです。
まとめ
- バードストライクとは、航空機に鳥が衝突すること。離着陸時の低空で起きやすい
- 小さな鳥なら血糊・羽・肉片で気づく。凹むこともあれば無傷のこともある
- 大きな鳥は機首のレドームを突き破るほどの衝撃になる
- コックピット窓周りや主翼の複合材に当たると、非破壊検査で“見えない傷”を確認する
機体に何かが当たるトラブルという意味では、雷も同じように整備士が点検します。飛行機の窓が割れる事故の記事とあわせて読むと、機体がどれだけ丁寧に守られているかが伝わると思います。

