飛行機に雷が当たったらどうなる?遅延・欠航の理由と被雷点検を現役整備士が解説
フライト中に窓の外で稲光が見えると、「飛行機に雷が落ちたらどうなるの?」と不安になります。
結論から言うと、飛行機に雷が当たっても、飛行は続けられます。ただし着陸後には整備士の点検が待っていて、次の便が遅れたり欠航したりします。
現役の一等航空整備士の私が、雷で遅延・欠航する理由と、被雷した機体の点検・修理の中身をお話しします。
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私と同じ一等航空整備士が書いた本もあります。『現役航空整備士が書いたかなりマニアックな飛行機豆知識』です。機体構造の章があります。機体の作りをもっと知りたくなった方はどうぞ📕
結論:飛行機に雷が当たっても飛行は続けられます
まず安心してほしいのはここ。飛行機は雷が当たることを前提に設計されています。電気は機体の外側の表面を流れて空中へ抜けていくため、中にいる乗客や重要な装備に直接影響が及ばない構造になっているのです。
被雷(雷が当たること)は珍しい出来事ではありません。アメリカ国立気象局によると、旅客機は平均して年に1〜2回、雷に当たります(Lightning and Planes)。雷が原因の旅客機の墜落は、何十年も起きていないとも書かれています。
日本国内でも、被害の大小を合わせて年間数百件の被雷が起きています(JAXA 航空機被雷の危険性予測)。整備の現場でも、被雷した機体の点検と修理は定期的に発生する仕事です。
雷で飛行機が遅延・欠航する2つの理由
雷で飛行機が遅れる理由は2つあります。空港に雷が近づいて地上の作業が止まる場合と、飛行中に被雷した機体の点検に時間がかかる場合です。
理由1:空港に雷が近づくと地上の作業が止まる
空港の近くで雷が鳴ると、駐機場の作業は中止になります。屋外で働く地上職員が雷に打たれる危険があるためです。中止の指示は無線で届きます。空港によっては警告灯が光って知らせます。
搭乗橋(ボーディングブリッジ)がつながっていれば、お客様は安全に乗り降りできます。一方で、地上職員は建物の中へ退避します。荷物の積み下ろし、給油、飛行機の押し出しが止まるため、出発が遅れます。

雷が遠ざかるまでは、私たち整備士も外の作業に出られません。
理由2:被雷した機体は点検が終わるまで飛べない
飛行中に被雷した機体は、着陸後に整備士が点検します。被雷は、パイロットからの報告で分かることもあれば、整備士の点検で跡が見つかることもあります。
被雷の点検は、数人がかりで数時間かかります。損傷が見つかれば、修理の分だけさらに時間が延びます。そのため次の便は遅れることが多いです。修理が必要で、代わりの機体も用意できないときは欠航になります。
JAXAも、着陸後の安全確認で次の便がしばしば遅れ、大きな損傷ではまれに欠航になると説明しています。代わりの機体をやりくりする仕組みは、機材繰りとは?遅延の理由でいちばん多い原因を現役整備士が解説で紹介しています。
雷が当たると「入り口」と「出口」ができる
ここからが整備士の世界。雷が機体に当たると、電気が入った場所と抜けた場所——つまり「入り口」と「出口」が、はっきり分かるくらいに焦げたり溶けたりします。
例えば機首付近から入って、翼の端や尾部から抜ける。被雷後の点検では、この入り口と出口を探しながら、機体全体をくまなくチェックしていきます。雷の通り道を読み解くのは、ちょっとした推理のようでもあります。
私が見てきた被雷の跡は、黒くこげていたり、金属が溶けていたりしました。大きさは数ミリの点から、20〜30センチの大きなこげまでさまざまです。

アルミの機体なら、修理は意外とシンプル
ほとんどの飛行機の機体はアルミニウム合金でできています。アルミは電気をよく通す(導電性が高い)ので、雷の電気は機体表面をスムーズに流れて抜けてくれます。
それでも被雷のダメージは残ります。よくあるのはリベット(機体のパネルをとめている鋲)が溶けるパターンです。溶けたリベットを交換すれば直せるため、修理としては比較的シンプルです。「入り口と出口を見つけて、傷んだ部分を交換する」——アルミ機体の被雷修理は、整備士にとって手順の見えやすい仕事です。
B787(カーボン機体)は話がまったく違う
ところが、ボーイング787のような新世代の機体は事情が変わります。787の機体は、アルミではなくカーボン繊維の複合材(CFRP)でできています。軽くて強く、燃費に貢献する素晴らしい素材なのですが——電気をあまり通しません(導電性が低い)。
さらにCFRPは、カーボン繊維のシートを何層も重ねた積層構造。雷のエネルギーが加わると、この層と層の間が剥がれる「剥離(はくり)」が起きることがあります。表面の焦げなら見れば分かりますが、剥離は内部のダメージ。そして積層構造の修理は、リベット交換のようにはいかず、非常に大変なのです。
私は、被雷した787の損傷を何度も直接見てきました。訓練では、剥離した部分を直す積層修理も扱っています。
同じ「雷が当たった」でも、機体の材質によって修理の難易度が激変する——これは、新しい素材の飛行機が増えていく時代の、整備現場のリアルな課題でもあります。
翼の先の細い棒は避雷針ではありません
翼や尾翼の後ろの端には、細い棒が何本も付いています。スタティックディスチャージャー(放電索)と呼ぶ部品です。「雷を受ける避雷針」と紹介されることが多いのですが、放電索は避雷針ではありません。
飛行機は飛んでいるあいだ、空気やチリとこすれて静電気を帯びます。静電気が機体から放電すると、無線に雑音が入るおそれがあります。放電索は、静電気を無線のじゃまにならない形で空中へ逃がす部品です。

私は、雷が放電索に当たった跡を見たことがありません。
被雷が多いのは夏より冬の日本海側
現場の実感では、被雷は夏場よりも冬場の日本海側でとくに多く起きます。夏の夕立のイメージとは逆です。
JAXAも、飛行機が引き金になって起きる雷(誘発雷)は冬の日本海沿岸でとくに多いとしています(JAXA 被雷予測エリアの可視化)。ただし被雷は一年を通して起こります。
よくある質問
Q. 被雷したら必ず欠航になるの?
A. いいえ。点検で損傷が見つからなければ、遅れて出発します。欠航になるのは、修理が必要で代わりの機体も用意できないときです。
Q. そもそも雷に当たらないように飛べないの?
A. パイロットは気象レーダーを見ながら雷雲をできるだけ避けて飛びます。それでも空の天気は変わりやすく、完全にゼロにはできません。だからこそ「当たっても大丈夫な設計」と「地上での点検・修理」の二段構えになっているのです。
Q. 乗っているときに被雷したら分かる?
A. 「ドン」という音や閃光に気づくこともあれば、まったく気づかないこともあります。気づかないくらい、機体が電気をうまく受け流してくれているということですね。
Q. 車も雷に強いって聞くけど、同じ原理?
A. はい、似ています。金属のボディの表面を電気が流れて、中の人には届きにくい——という考え方は共通です。飛行機はそれを空の上でやってのけている、というわけです。
まとめ:雷は「当たったあと」に時間がかかる
- 飛行機は雷が当たる前提で造られていて、旅客機は平均して年に1〜2回当たる
- 雷で遅延・欠航する理由は、地上の作業の中止と、被雷後の点検の2つ
- 雷の入り口と出口には、こげや溶けた跡が残る
- アルミの機体はリベット交換で直せるが、787のようなカーボンの機体は剥離の修理が大変
- 翼の先の細い棒は避雷針ではなく、静電気を逃がす部品
- 被雷は冬の日本海側でとくに多い
雷と同じように、鳥がぶつかったあとも整備士が機体を点検します。バードストライクの跡と点検の中身は、下の記事で紹介しています。

整備士の仕事の全体像は航空整備士の仕事内容とは?4種類を現役が徹底解説をどうぞ。
航空の安全の取り組みは国土交通省 航空局の公式サイトもご参照ください。
