飛行機の燃料タンクに人が入る!?コックさん姿の整備士の正体を現役が解説
白いツナギに白い帽子——空港や格納庫で、まるでコックさんのような姿の人たちを見かけたら、それは料理人ではありません。実は、飛行機の燃料タンクの中で作業する整備士なんです。
何を隠そう、学生時代の私も初めてこの姿を見たとき「なんで空港にコックさんがいるの?」と本気で思いました(笑)。この記事では、現役一等航空整備士の私が、人が飛行機の燃料タンクに入って作業するという、あまり知られていない整備の世界を紹介します。
飛行機の燃料タンクはどこにある?答えは「翼の中」
まず前提から。飛行機の燃料タンクは、主に主翼(つばさ)の中にあります。タンクという別の入れ物が積んであるのではなく、翼の内部の空間そのものが燃料タンクになっているんです(インテグラルタンクと呼ばれます)。
あの薄く見える翼の中に、何万リットルもの燃料が入っている——初めて知ったときは驚きませんか? そして、その翼の中に、整備士が入っていくのです。
なぜ人が燃料タンクに入るの?
「タンクの中に入る仕事があるの?」と思いますよね。あるんです。燃料タンクの中には、燃料の量を測るセンサーや配管などの装備品が取り付けられています。これらに不具合が起きたときの整備や、機体を長期間かけて点検する定期整備のときに、整備士が実際にタンクの中へ入って作業します。
外から手が届く場所ではないので、人が入るしかない。飛行機の整備には、こんな「中の人」にしかできない仕事もあるんです。

コックさんの正体:白い専用ツナギの理由
ここで冒頭の「コックさん」の謎解きです。燃料タンク内の作業では、専用の白いツナギを着用します。この装備には、ちゃんとした理由があります。
- 静電気を防ぐため…燃料タンクの中で静電気の火花はぜったいに起こせません。静電気が起きにくい素材(綿系)の専用ツナギで全身を包みます
- 帽子で髪の毛一本も落とさない…タンク内に異物を残すことは厳禁。髪の毛すら落とさないよう、頭までしっかりカバーします
- 金属などの持ち込みを徹底管理…火花や傷の原因になるものは持ち込まない。入る前の準備から管理が徹底されています
つまりあの姿は、「タンクの中を燃料以外の何ものからも守る」ための正装。白ツナギ+帽子のシルエットが、どう見てもコックさんに見えてしまうだけなのです(笑)。
タンクの中は、かがんでやっと入れる狭い世界
翼の中の空間なので、タンク内は当然狭い。かがんだ姿勢でやっと入れるようなスペースで、姿勢を保ちながらの作業になります。現役としての本音を言うと——狭くて、怖い! です(笑)。慣れても緊張感のある空間なので、閉所恐怖症の人には正直厳しいかもしれません。
もちろん、燃料が入っていた空間に人が入るのですから、安全管理は厳重そのもの。タンク内の環境を整え、安全を確認したうえで、決められた手順に沿って作業します。「狭い・暗い・絶対にミスできない」——燃料タンク内の作業は、整備の仕事の中でも特に神経を使う仕事のひとつです。
学生時代の私「なんでコックさんがいるの?」
最後に、冒頭の思い出話を。学生時代、初めて燃料タンク作業の現場を見たとき、白ツナギに白帽子の集団を見て、本気で「なんでコックさんがここに?」と思いました。厨房から出張してきたようにしか見えなかったんです。
理由を聞いて「翼の中に人が入るのか!」と二度びっくり。あのとき感じた「飛行機の世界は知らないことだらけだ」というワクワクは、整備士になった今でも忘れられません。
よくある質問
Q. 燃料が入ったまま入るの?
A. いいえ。まず作業するタンクの燃料を抜き、ダクトで空気を送り込み、もう1つのダクトで空気を吸い出して換気します。そのうえでタンク内の酸素濃度を確認しながら中に入ります。準備の段階から、これだけ厳重な手順が決まっているんです。
Q. 体が大きい人は大変?
A. 正直、狭さとの戦いなので小柄な人のほうが有利な場面はあります(笑)。とはいえ体格に関係なく、姿勢の維持や閉所への耐性など、誰にとってもタフな作業です。
Q. どのくらいの頻度である作業なの?
A. 毎日ある作業ではなく、数ヶ月に1回くらいです(担当する飛行機の数が多いほど、タンク内作業の回数も増えます)。センサーなどの不具合が起きたときや定期整備での「ここぞ」の仕事なので、あの白ツナギ姿は空港でもレアな光景なんですよ。
まとめ:白いツナギは、安全を守る仕事着
空港や格納庫でコックさんのような白ツナギ姿を見かけたら、それは飛行機の燃料タンクの中で働く整備士です。静電気ひとつ、髪の毛一本にまで気を配る、繊細で責任の重い仕事。
飛行機の安全は、こんなふうに「見えない場所」でも、地道に守られています。次に飛行機に乗るとき、あの翼の中で誰かが仕事をしていたのかも——と想像してみると、空の旅が少し違って見えるかもしれません。整備の世界には、まだまだこんな「知られざる仕事」がたくさんあります。

整備士の仕事の全体像は航空整備士の仕事内容とは?4種類を現役が徹底解説をどうぞ。
航空の安全の取り組みは国土交通省 航空局の公式サイトもご参照ください。
